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タイでフリーランスやデジタルノマドワーカーの長期滞在に最適なビザを考察してみた

インターネットによって働き方は大きく変わり、ノートパソコンさえあれば世界中どこからでもできる仕事も増えました。

タイは、外国企業の生産拠点、バックパッカーの聖地、リタイア後のロングステイ先という顔に加え、近年では「デジタルノマドの聖地」という称号も獲得しています。

物価の安さ、親切なタイの人々、リラックスした文化、温暖な気候、食事や娯楽など、さまざまな魅力を兼ね備えたタイに世界から人を惹きつけられてくるのは自然の流れなのかもしれません。

しかし長期滞在をする場合に必ず考えなければならないのがビザの問題です。

今回はノマドワーカーに適したビザを、最近の状況などを交えて紹介します。

当記事の内容は筆者の経験や収集した情報に基づく個人的な意見であり、法的なアドバイスを行うものではありませんのでご了承ください。

法的なアドバイスは弁護士に、情報の利用は自己責任にてお願いします。

観光ビザ

日本のパスポートを持っていればビザ免除で30日滞在できます。

またタイ大使館で観光ビザを申請すれば、3ヶ月のシングルビザ、6ヶ月のマルチプルビザを申請できるので、とりあえずこれだけでもある程度の期間は滞在できます。

とりあえず「お試し」的にタイに来る人は観光ビザを利用するのがスムーズといえますが、この方法だけでは長期的にタイに滞在するのは困難です。

 

「6ヶ月の観光ビザでタイに行って期限いっぱいまで滞在。帰国したらすぐにまた6ヶ月の観光ビザを申請して入国すればほぼ一年中タイにいられる」

「ビザ免除の期限の30日が近づいたら一度ミャンマーかラオスに行って、その後またタイに再入国すればまた30日分のスタンプがもらえる」

 

こんな抜け穴も過去には通用したのですが、こうしたやり方は「ビザラン(visa run)」や「ボーダーラン(border run)」といわれてバックパッカーや不法就労者に使われることが多く今では厳しくなっています。

現在はタイの出入国記録をコンピュータで管理しており、一年間のタイ滞在期間が累計で6ヶ月を超えたり隣国への頻繁な出入国を繰り返しているとマークされ入国審査で警告され、最悪の場合入国を拒否されることもあるそうです。

そのため、あくまで観光ビザは多用できないと理解した上でお試し的な位置づけに限定しておいた方がよさそうです。

リタイアメント(年金)ビザ

タイは年金受給者を対象にリタイアメントビザ を発行しています。

リタイアメントビザの申請条件は以下の通りです。

  1. 50歳以上
  2. 80万バーツ以上をタイ国内の銀行に維持する、または月々の収入(年金等)が65000バーツ以上
  3. 上の「2」を満たせない場合、預金と月々の収入の合計で80万バーツ以上あること

年齢制限があるためデジタルノマドの多くは対象外となるかもしれませんが、50歳以上の方は検討の価値があります。

ビジネスビザ

観光ビザ・年金ビザとみてきて、

 

「仕事をするために滞在するんだからビジネス用のビザを取って正々堂々と滞在すればいいじゃないか」

 

と思うかもしれませんが、じつはビジネスビザはタイの現地企業に就職するならともかくノマドワーカーにとっては一番ハードルが高いかもしれません。

ビジネスビザでノマドをやるシナリオとしては、まず自分の会社を作ってその会社で働くために自分の就労許可を申請するという流れになると思いますが、厳しい条件があります。

まず外国人を雇うには、資本金の条件は200万バーツ以上の会社を設立する必要があり、さらに外国人一人雇うためにはタイ人従業員を4人雇わなければならないのです。さらに外国人(あなた自身)の給料にも条件があり最低でも6万バーツの給料を支払わないといけません。

その上、法人設立から始まり、月次の会計処理などの手続きはすべてタイ語でこれらを従業員に依頼するか外注する必要が出てくるなど、ノートパソコンひとつで身軽に好きなところに移動できるという「ノマド」の趣旨からは大きく外れています。

教育ビザ

現在、長期滞在するデジタルノマドの間でもっとも一般的といわれているのが教育ビザです。

教育ビザは取得がしやすいのがメリットといわれ、タイ語やその他の言語(英語などもある)、ムエタイなどをタイ政府に認定された教育機関で学ぶことを目的としたビザです。

逆にデメリットは、

  • 学費がかかること
  • 授業に出席しないといけない

 

にあります。学生になるのですから当然といえば当然ですね。

中には授業時間が少ないプログラムや、週に一度いって出席確認するだけなんてズサンな学校もあるため、多くのデジタルノマドが、このビザを取得して学校に顔を出しつつフリーランスというスタイルをとっているようです。

タイ政府は教育ビザがノマドワーカーの隠れ蓑となっていることをすでに把握しており、今後の方針次第では、ズサンな学校や学習プログラムに対する締め付けが厳しくなる可能性もあります。

タイランドエリートビザ

タイランドエリートとは、ゴルフクラブやエステ、健康診断、リムジン送迎などVIP向けの特典が盛り沢山会員制クラブです。

「それとビザに何の関係が?」

と思ったかもしれませんが、じつはこのクラブはタイ政府観光庁が運営していて、その最大の恩恵はゴルフやエステの無料特典などではなく

5年間マルチプルビザの発給

なのです。

「金でビザを売るのかよ」とツッコミたくなるこのビザですが、ズバリそういう趣旨のビザとなっています。

気になるお値段は5年で50万バーツ(約180万円)。年あたりで計算すると10万バーツ(約35万円)となっています。

ビザの期間を20年にしてゴルフなどの特典を省いたSuperior Extensionというプランもあり、これだと20年で100万バーツ(≒350万円)と、年単位で平均すると多少は割安にはなります。

なんか罠にかかっている感がしないでもないこのビザですが、

  • タイが好きで将来もタイで暮らしている自分の姿を明確に想像できる
  • この金額を前もって用意できる

という条件を満たしているのであれば、普通にいいビザだと思います。

たしかに費用は高いですが、

  • 観光ビザでビザランをするために定期的にミャンマーとかに行く時間やコストが節約できる
  • 教育ビザで学校に支払う学費と、実際に授業に参加する時間を節約できる
  • 入管にマークされたり入国拒否されるリスクが限りなく小さくなる

というメリットがあります。

SMARTビザ

SMARTビザは比較的新しいビザです。詳細が発表される前はノマドワーカー向けのビザになるのではないかという噂があったものの実際にはノマドワーカーにとっては使いどころがないビザだとわかり、期待していた人たちは失望しました。

SMARTビザには高度技術者(T)、上級管理職(E)、投資家(I)、スタートアップ(S)、その他(O)というカテゴリがあります。

高度技術者と上級管理職は、政府が認定した分野の企業で該当する業務をする場合にみ適用されるもので、ビジネスビザと同じようなものです。ビジネスビザよりもビザの期限が長く、面倒な手続きが一部免除されたりという優遇はあるのですが、ノマド向きのビザではありません。

また投資家に関しては、タイ政府が定める分野のスタートアップ企業に500万バーツ出資しないといけません。

そして「スタートアップ」ですが、これも政府が指定する分野で起業してその会社で勤務するためのものであり、これもビジネスビザと同じ趣旨となってしまいます。

最後の「O」カテゴリですが、これはSMARTビザ保有者の配偶者や未成年の子供などの家族に発行されるビザなので、上記のカテゴリでビザを取得できないと意味がありません。

就労とノマドワークのグレーゾーン

ここまで、デジタルノマドが使える可能性のあるビザを紹介してきましたが、注意点があります。

それは、ビジネスビザとSMARTビザ以外のビザではタイ国内で就労できないということです。まとめると以下のようになります。

ビザの種類 現実性 就労
観光 不可
年金 △ (年齢制限) 不可
ビジネス × 
教育 不可
エリート △ (初期費用) 不可
SMART ×

 

表を見るとわかるように、就労できるビザはタイでしっかりと事業を展開している会社で働くことを前提としているため、ノマド的な働き方とは相容れないでしょう。

しかしタイには世界中から数多くのノマドワーカーが訪れ長期滞在しています。それはノマドワークが就労に該当するかどうかがグレーゾーンとなっているからです。

ちなみにですが、エリートビザでさえ就労は禁止されています。このビザはリッチなリタイア組だけでなく、与沢翼氏のような別の国で事業や投資をしている層も想定しているはずなんですよね。そういう層が、タイからリモートで会議をしたりネットで投資を行ったというだけで就労になるかといえばそうではないはずです。

もちろん、現地で給料が発生する仕事をしたり、自分で露店などをはじめてお金を得るのは完全にアウトです。

ですがタイにいるデジタルノマドの多くは自分の国で仕事の案件を探して、タイで作業をして、納品はネット上、お金は自分の国で受け取るという形態が多いでしょう。そのため、タイ政府がこの所得を把握することはほぼ不可能と思われます。

また、就労許可の根幹にある「タイ人の雇用を保護する」という観点からも悪影響があるとは思えません。むしろ外国で得たお金をタイ国内で消費するので、そういう意味ではタイにとってもプラスであると考えられます。

そう考えると問題はないと思うのですが、それは入管職員の法解釈とは異なります。

それを踏まえた上でのアドバイスは、ノマドワークは現実にはグレーゾーンなので慎ましく行うこと。そして、ノマドワークをしていることを入管に話すのは絶対にNGです。用心深い人は知り合いにも話しません。

僕は昔、まさにこれをやってビザを取り消されそうになりました。「長期滞在してるけど収入は十分にあるからタイには迷惑かけない。信用してくれ」という意図だったのですが、逆に大問題となってしまいました。

ある日、複数の入管職員が警察のピックアップトラックに乗って家にやってきて、どこでどう仕事をしているのかなどを事情聴取されました。自宅のこの机で作業していますと説明すると、職員の一人が分厚い法律辞典を開いて「労働者は雇用者が定める事業所で仕事をしなければならない」と英語で書かれた箇所を指差し、僕がこれに違反しているというのです。

そもそもどこで働くかは労使間の取り決めであり、すでに上司が家でリモートワークを了承しているのに、それをタイの警察が認めないなんていうのはおかしな話で、全く納得できませんでした。

しかしビザ発給の全権は相手にあるのでここで逆らってもいいことはありません。

そのときは妻が警察で働く友人に連絡を取り、警察同士(タイ入管は警察です)で話してもらった末、紙切れが入った封筒をゴニョゴニョして事なきを得ましたが、もし僕一人だったら対処できていなかった可能性が高いです。

僕はそれ以降、どんな仕事をしているとか余計なことを口走らなくなりました。それで入管から「生活費はどこから持ってきた?」とか聞かれたことは一度もありません。

自分にあったビザを選ぼう

以上、ノマドワーカーに関連のありそうなビザを見てきましたが、結論からいうと、

  1. とりあえずお試しの場合は場合は観光ビザ。でも使いすぎると目をつけられる
  2. 勉強もしながらなら教育ビザ。これも将来厳しくなるかもしれない
  3. おそらく最強なエリートビザ。でも高い

という感じでしょうか。

本来の目的と違うビザで滞在せざるを得ないこの現状は、ノマドワーカー向けのビザが存在しないから起きています。

しかし希望もあります。

噂では、タイ政府は別にノマドワーカーを締め出そうとしているわけではなく、むしろ高度な技能を持った人材として、タイ国内の高成長のデジタル分野の発展に活用したいと期待している節もあるらしく、そのためノマドワーカーがすごしやすいようなビザを検討しているのではないかといわれています。

ただこれはこれで不正利用される恐れもありますし、そもそも証明が難しい外国での収入などが絡むので、仕組み作りが難航しているのかもしれません。

世界各国のあらゆる年齢層を惹きつけるタイの魅力と、高度人材を惹きつける政策が合体すれば、タイのバンコクやチェンマイは将来、AIなどデジタル産業の一大集積地になる日がくるのかもしれません。

アメリカのシリコンバレーだってアメリカ人だけで作り上げたわけではなく、移民の力が相当大きいといわれています。世界中の才能を惹きつける魅力と建国以来の移民政策がシナジーとなった結果なのかと思うと、バンコクがアジアのプチシリコンバレーなんてのも夢物語ではないのかもしれません。

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